【特別対談】STARDOM岡田社長×きしだくん

 日常の感覚を持っていることが、社会人プロレスラーの強み――。そう語ったのは2023年12月に女子プロレス団体STARDOMを運営する株式会社ブシロードファイトの代表取締役社長に就任した岡田太郎社長(以下、岡田)。就任以降、様々な改革を行っている岡田社長だが、そのルーツは有給プロレス代表のきしだくん(以下、きしだ)と同じ学生プロレスである。同じルーツを持ち、大小あれど今やプロと社会人、それぞれの団体の代表となった二人が社会人としてプロレスに関わることの意義について対談を実施!


学生時代から変わらぬプロレスへの思い

きしだ 本日はよろしくお願いします。岡田さんは2009年入門である私の3学年上の先輩であり、関西にて学生プロレスをやられていたということで、当時はどのようなプロレスをしていたのでしょうか?

岡田 関西にあるDWA(同志社大学プロレス同盟)という団体に所属しておりました。リングネームはちゃんと下ネタでした(笑)。

きしだ 確かに学生プロレスは下ネタのリンクネームが多いですし、染まってしまいますよね(笑)。DWAというと今回有給プロレスに参戦していただくレイザーラモンHGさんが先輩にあたるのでしょうか?

岡田 そうですね。RWF(立命館プロレス同好会)とも一緒に活動していたので、RGさんや新日本の棚橋社長も、ある意味先輩です。

きしだ 関西の学生プロレスは本格派とお笑い系の選手の割合が半々くらいと聞いたことがあるのですが、岡田さんはどのようなスタイルでしたか?また岡田さんの現役当時、現在のように他団体との交流はあったのでしょうか?

岡田 どちらかと言うと私はお笑いではなかったです。自分が入った時、DWAはお笑い系の選手が多かったのですが、自分は1年目ですごくスベってそこからはもう…

 また他団体とは、自分の少し上の代でKWF(九州産業大学プロレス研究会)と交流があったと聞いております。、自分の時はKWA(関西大学プロレス連合)と一緒に大会をやった程度です。しかし、学生といえど団体それぞれで持っていたプロレス観、サークルの目標とか主張が合わず、徐々に交流はなくなってしまいましたね(苦笑)。

きしだ プロレス観の違いは私も学生の頃よく感じました。学生の頃は考えも固く、他団体の考えがなかなか理解できないこともありました。一方で、社会人になるとそのあたりはずいぶん柔らかくなったので、今は仲良くやれていますが(笑)。

 ちなみにプロレスは大学卒業後も続けたのですか?

岡田 いいえ。1回友人の結婚式の余興でブレーンバスターをやった程度ですね。ただ仕事でリングに触れる機会があると、「なんかやりたいな」という気持ちが出てきてしまうこともあります!

きしだ 社会人プロレスはいつでもウェルカムです! やはりつい受身をとったり、ロープワークしたくなったりしてしまいますよね(笑)。先日HGさんにインタビューさせていただいた時も、家出レスラーの撮影時にロープワークしてしまったとおっしゃっていました。


プロレス熱が高まり、昔を思い出しきしだくんと熱いロックアップを交わす岡田社長



学生プロレスの経験が活きた社会人生活

きしだ 5月に公開された家出レスラーという映画では岡田さんがプロデューサーを務められたということで、具体的にどのような役割をされていたのでしょうか?

岡田 家出レスラーではプロデューサーとして、映画とプロレスの世界を繋ぐ役割をしておりました。プロレスのシーンを撮影する際に、動きがそのままだと女優さんは真似できないので、プロレスらしさを活かしつつも映像として映える様な演出をプロレス指導の朱里さんと、ヨリコジュン監督と考える、つまりプロレスの翻訳の様なことをしておりました。例えば、女優さんではドラゴンスープレックスを投げたり受けるたりすることは流石にできないので、映像としては投げる直前、投げられた後を切り取るのですが、投げられた後に画面を揺らす演出を付け加えたり、技の後の立ち方をカットに加えたりすることでリアルな臨場感も演出しました。こうした発想に学生プロレスの経験が活きましたね。

 学生プロレス時代は「どうやったらプロのやっているプロレスに近いものが学生にできるのか、そしてプロレスを知らない通りがかった学生が見て面白いようにできるか」を日々研究しており、その経験によりプロレスの言語化能力が身に付きました。この能力を活用することで、今回のようにプロレスを知らない人へ伝えられる仕事をしていきたいと思います。。

きしだ 学生時代の経験が良い形で社会人生活に活かせているのですね! では逆に、学生プロレスの経験がマイナスに働いたことはありましたか?

岡田 学生プロレスの経験を引け目に感じることはあります。「学生プロレスをかじったやつが、なに社長やってるんだ!」と思われていないかなど…。なので、あまり大手を振って「学生プロレスをやっていました」とは言えておりません。ただし、今の自分の仕事の軸となっているのは社会人になってから培ったエンタメ業界のプロとしてのスキルであり、その点でいえば学生プロレスの経験が生きていることはあってもマイナスに働くようなことはありません。具体的には、試合自体はプロのレスラーにお任せし、人々に見てもらうためのハードルをどうクリアしていくかを考えるのが私の仕事になります。もちろん会社組織なので、社長業務もあります。

きしだ 岡田さんがおっしゃった「見てもらうためのハードル」については、我々社会人もかなり考えます。今回の有給プロレスでも、いかにして見に来てもらうかを考えており、例えば1円~の後払い席を用意するなどの工夫もあります。

岡田 後楽園ホールにて1円~の後払い席を用意したのは、プロだとなかなか踏み出せない施策ですね! そうした実験的なアイデアを社会人プロレスの方々が行ったのが素晴らしいと思います。これはひとえに皆さんがきちんと社会人を経験して、さまざまな職業のプロとして活動しているからこそ思い付き、実行できたことでしょう。


棚橋社長が「関西学プロOBが社長になったね」と笑って言ってくれた

きしだ STARDOMの社長に就任された際に、新日本プロレスの社長であり、同じく関西の学生プロレス団体RWF(立命館プロレス同好会)出身の棚橋弘至さんと何かお話しされたのでしょうか?

岡田 ブシロードに入社した際にご本人と話す機会があり、そのころから交流がありました。入社後は棚橋さんに限らず、新日本プロレスの選手がブシロードのイベントに参加するときにお手伝いをすることがありました。そのため、スターダムの社長に就任した際、初めは新日本プロレスの方が知り合いが多い状況でした(笑)。

 その後、新日本プロレスの社長に棚橋さんが就任すると聞いたときは、正直に言って「こんなことが起きるのか!」と驚きました。自分が棚橋さんと同じ会議に出席していること、また非常に勝手ながら、学生プロレス出身者がこの2団体の社長になっていることなど含めて、非常に感慨深いです。棚橋さんが社長に就任された際に「DWAとRWFのメンバー(関西学プロOB)が社長になったね」と笑って言ってくれました。

 また、家出レスラーでHGさん、RGさんとお会いした時も同じ話になりました(笑)。私と棚橋さん、学生プロレス出身という共通点はあれど、全く異なる別々の道を歩み辿り着いた先で今一緒になってプロレス界に貢献できることを光栄に思っています。


就任挨拶を後楽園ホールのリング上で行う岡田社長



お互いの立ち位置を理解して、良い関係性を築きたい

きしだ 最初、有給プロレスの存在を聞いた際にどのような感想を持たれましたか?

岡田 純粋に行動力が凄いなと。自分たちの「やりたい」という気持ちを昇華して実現させたことはすごいエネルギーだし、プロレスへの愛を感じました。また、後楽園ホール大会という大規模なイベントを成功させる上で、どのような選択肢を取るのかも気になっておりました。そこで集客する1つの起爆剤として、プロレス好きで一般の方にも有名なHGさんにオファーした点はかなりエネルギッシュで凄いなと感じました。皆さんのように、どのようにして人を呼ぶかを考え抜くところは、我々も見習いたいです。

きしだ ありがとうございます。HGさんをお呼びしたことについても、単純に注目を集められるだけでなく、「我々学生プロレスの先輩であり、この興行に出場していただきたい」との気持ちもあり、オファーいたしました。そのように評価していただき、大変嬉しく思います。

岡田 見に来ていただくためにどのような手法を取るのかについて、プロレスへのリスペクトが皆さんにあるからこそ、他でもないHGさんを選んだのだと思います。これは家出レスラーでも同じで、STARDOMというものを知らない人にどうやって観てもらうかと考えた時に、キャスティングを検討する際に(もちろん演技力やオーディションはありますが)プロレスが好きでプロレスを知らない人にも認知されている方にオファーすることが重要でした。そのためHGさんやRGさん、くりぃむしちゅーの有田さんたちのようなプロレス好きの方々にご協力いただきました。また、プロレスに限らずどのジャンルでも、こうした一般層へリーチする手法は重視されるので、そういう意味では「社会人な選択」だなと思いました(笑)。

きしだ 社会人としてさまざまな経験をしたプロが集まったからこそ、今回の興行が実現できたと考えています。

岡田 プロレス業界に携わる上で、「社会を知っている」というのはとても重要です。本業界は、昔は浮世離れしていることが重要だったかもしれませんが、社会という枠を知るからこそ非日常を見せられると私は考えています。プロレス興行に携わる全員が非日常しか知らないと、お客様の思いとは別の方向に走ってしまいます。レスラーが気兼ねなくリング上で闘えるように、日常や現状をしっかりと認識していくこと、それが我々「プロレス社会人」の役割だと思っています。このような日常の感覚を持っていることが、皆さん社会人プロレスラーの強みかなと。

きしだ ありがとうございます。最後に社会人プロレスに一言いただけますか。

岡田 社会人プロレスは例えて言うなら草野球だと思います。これは悪い意味ではなくて、プロというカテゴリはあるけれども、何歳になってもそのジャンルを好きで挑戦していける環境であると。またプロレスを知らない方にとって、もっとすごいものを見てみたいと思い、プロのプロレスを見に来ていただけるきっかけの一つになればよいなと思っています。ただし、そこはしっかりとプロとしての違いを見せていかなくてはいけないし、お互いに敬意を持つことでプロレスというジャンルを発展させていきたいと思っております。

 我々は社会人プロレスに対して拒絶もしなければ融合もしない、お互いがお互いの立ち位置を理解して良い関係性で進めていくのが良いのではないでしょうか。会社として公式に応援することは難しいのですが、プロレスに興味を持っていただくきっかけにもなるので、個人的には今回の大会はとても応援しています。

きしだ ありがとうございます。今回プロレス観戦が初めてという方も多いと思うので、そのような方々にも「プロレスって面白いな」と思っていただけるように頑張ります。本日はお時間いただきありがとうございました!

(2024年5月29日収録)


●岡田太郎

168㎝80㎏。神奈川県出身。1987年生まれ(36歳)。高校卒業後、同志社大学に入学。大学在学中は同志社プロレス同盟(DWA)に入門。卒業後は(株)アニメイトを経て、2013年に(株)ブシロードに入社。入社後はミルキィホームズのプロデューサー等を担当し、2022年に劇団飛行船の取締役に就任。2023年には映画『家出レスラー』の制作プロデューサーを務め、同年12月に女子プロレス団体STARDOMの運営会社であるブシロードファイトの社長に就任。

社会人プロレス後楽園ホール大会 公式サイト

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